明かされた真実

56/57

300人が本棚に入れています
本棚に追加
/334ページ
榊は、小枝の言葉を全て伝えるべきか迷っていた。 「知っている事は全部話せ。頼むから」 貴彦は榊を必死の形相で睨み、にじり寄る。 「小枝さんは、無理だ…と言っていた」 貴彦にはショックだった。心臓は鼓動を速め、大声で叫び出しそうなほど混乱していた。 「どういう意味で?僕に会うことをか?結婚か?それとも…その話をすることを?」 貴彦への同情で、榊自身も苦しくなっていた。 「全部の意味で、受け取っていいと思う」 貴彦は打ちひしがれ、そんな馬鹿なと力なく声を上げた。 榊は貴彦の身体が心配になった。これほど落ち込む貴彦を初めて目にしていた。 「気休めかもしれないが、小枝さんのお前への気持ちは変わっていない」 貴彦は微笑を漏らす。 「彼女は頑固なんだ」 榊はなんとなく思い至る。 「うん、そうかもな。 …とにかく、2、3日彼女に時間をあげてみたらどうだ?」 時間をあげるのはいいが、あけすぎても良くないのではと、貴彦は考え込む。 榊は立ち上がり、元気づけるように貴彦の肩を叩く。 「あまりくよくよ悩むと身体に障るぞ…じゃあな」 榊は部屋を出た。 だが、気になって、エレベーターを降りてすぐ貴彦に電話をかける。 貴彦はすぐに出た。きっと彼女からだと思ったろうと、榊は苦笑いを浮かべる。 「一つ言わせろ。お前たちのイザコザに巻き込まれた当然の権利だ。 お前たちはもっとお互いに信じ合うべきだ。もっと、初めからそうするべきだった。これからもそうだ。 俺ならそうする…じゃあな」 貴彦がひと言も発する間もなく、電話は切れた。 (信じる…信じているさ。もちろうそうさ。だからこそ結婚しようとしているんじゃないか。) 貴彦は榊に反発を感じたが、榊は自分たちのことを知る唯一の人間だった。 そして、その言葉の意味するところは、真実であり解決策でもあることに貴彦は気づいていた。
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加