明かされた真実

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(僕はなぜ、あのことを打ち明けられなかったのか…小枝を信じられなかったからだと、そういうのか…。 打ち明けたなら、彼女は僕から離れようとしただろう…だが、それですぐ僕は諦めただろうか。 かつて兄たちは同様の経験をした。だが、結局は一緒になったではないか。 僕は知られるのを怖れただけでなく、知られたくないと思っていた。正直、恥ずかしいとさえ考えていた。家柄に縛られたくないと言いながら縛られている自分を…。 こんな僕の心情を彼女は理解してくれるのかと思っていたんだな…) 「…確かに、榊ならこんなことにはならなかっただろうな」 声に出し、貴彦は自分自身を皮肉った。 1時間ほどカウンターの席で考え込んでいたが、そろそろと立ち上がり、携帯を手にする。 (絆を切ってはいけない。この絆だけは…これは、僕の命綱だ) 何を、という算段はなかった。 小枝の携帯に掛け、発信音を聞きながら、心臓の鼓動が速まるのを感じていた。 しかし、小枝が電話に出る意思はないようだと分かると発信を止める。 がっかりはしたが、予測の範疇だった。 貴彦には決意があった。小枝が出るまで毎日電話をかけ続けようと。 自分が意識のない間、小枝が毎日電話をかけ続けてくれたことを忘れてはいないと。 約束をすっぽかされ、連絡を絶たれ、どんなに不安だったろう。そんな中、一縷の望みをかけて毎日かけ続けた小枝。 誰も出ないと分かり、携帯を切る時の気持ちは、どんなにか寂しく悲しかったろうと。 貴彦は今、その時の彼女と同じ思いに沈むことを由としていたのだった。
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