決意

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この日貴彦は、夕方までソファーで横になり、少し眠った。 目が覚めた時に、眠ってしまったなと思った。 食事をしていないことに気がつき、外に出ることにした。 マンションを出て、緑地帯の側道を大通りに向かって歩き始めた貴彦は、視界に広がる真っ赤な西空を目にし足を止める。 以前、小枝と一緒に見た夕焼けと同じだと思った。 ふと自分の隣に目を遣ると、彼女の幻が見えるようなありありとしたイメージに心が捕われる。 (会いたい…小枝。君が恋しいよ…) 貴彦は歩みを再開した。立ち止まっていても仕方がないと。 小枝とのことは、絶対に思い出に終わらせない。 貴彦の足取りはそんな決意に溢れ、思いとは裏腹に軽かった。 * 小枝は、午前中を悶々として過ごした。 それは答えを得るためというより、貴彦を苦しめている罪悪感に終始苛まれた時間だった。 時刻は正午を過ぎていた。 食欲がなく、昨日から少ししか食べていなかったため、身体がふらついた。 (なにか食べなきゃ…) そう思い立ち上がった時、ダイニングテーブルに置いていた携帯が鳴り出した。 小枝は、まさか貴彦とは思わなかったが、しかし彼だった。 一旦手にした携帯を放り出し、着信音を悲しい気持ちで聞いていた。 (榊さんから伝言を聞いたに違いないもの、きっと驚いて掛けてきたんだわ。ひょっとしたら怒ったかも。 それか、もしかしたら、納得できるまで話したいのか…謝りたいのかも…) だが、未だ自分の気持ちと向き合えていない現状で、電話に出ることは土台無理なことだった。 結局小枝は、一日無駄に過ごしてしまった。昨日のように気持ちが高ぶることもなく、落ち着いていられる自分に驚いてもいた。 子ども達が順々に帰ってくればいろいろあり、貴彦のことを考えられなくなるのが、今はありがたかった。
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