決意

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翌日昼前、再び貴彦からの着信があった。 着信音は長くは続かず、出る意思がないと分かると諦めて切るようだと小枝は感じた。 小枝は、彼がどんな思いで掛けているのかが分かった気がした。 貴彦を愛する気持ちには何の遜色もなく、互いに愛情以外のことでこんなにも苦しまなければならないことが小枝には辛かった。 そして、彼が身体を癒さなければならないこの時期に、辛い思いを強いたことに申し訳なく思っていた。 夜になってから、子ども達はそれぞれ自室に入り、小枝はキッチンで手を動かしながら考える。 (確かに…私たちが一緒になれても結果的に駄目になるなんて、そんな風に考えることはないのかもしれない…。 貴彦さんの気持ちは痛いほど分かっている。要は子ども達のこと…。 とは言え、とうに結婚に失敗しているのだから、子ども達にはよく話してあげられれば父親をただ奪うことにはならないかも。 …結局は、貴彦さんではない。私の、私と夫の問題なのだ) そう思うが早く、小枝は携帯を取り出し、夫にメールを打つ。 今週末、離婚の話し合いを持ちたい。 子ども達が学校に行っている間に済ませたいから、金曜か月曜に有給を取って帰って欲しいと。 離婚を貴彦への誠意と考えていたことがあった。 だが、このことは彼の伺い知らぬところでやり遂げなければいけないと、小枝は思い至る。 離婚によって被る利害の穴埋めに貴彦を頼ってもいけないとも。 もちろん、保険をかけるつもりで婚約した訳ではなかったが、見方によればそうも取れる。 まずはきちんとして、それから貴彦とのことはあるべきと、小枝は今更ながら、恋に溺れて現実を避けていた自分に気がつくのだった。
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