決意

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「すみません。私、今のパートを増やすつもりですから…」 夫は意外そうに妻を見た。パートの件は知らされていなかった。 「何の仕事してるんだ?」 小枝は子ども達にした話を繰り返した。 夫はふうん、と頷いただけで、それ以上尋ねることはなかった。 夫には興味が湧かない仕事だろうとは思っていた。 だが、小枝はこの先を追求されることを恐れ、話題を移す。 「それで、この届けなんだけど」 小枝は、先ほど示した書類を指差し促す。 「今書くよ」 夫はそう言うと、小枝が用意したペンで一気に書き上げた。 続けて小枝も書き上げる。 書類が調うと、小枝は大きく息をつく。緊張していたのだ。 「なんだかあっけないな」 夫はそっぽを向いて呟いた。 「まだまだよ。大変なのはこれから。いろいろあるでしょ。子ども達には私から話す?」 「そうだな。頼むよ」 やっぱり、と小枝は思った。 「…なら、今夜話すから。夕食のあと」 そのタイミングに夫は自室に篭るだろうと、小枝にはわかっていた。 「で?届けはいつ出すんだ?」 「子ども達に話して、実家に報告したらすぐ」 夫は実家と聞いて、ああ、と唸る。 きっと忘れていたに違いないと小枝は呆れる。 「どっちも一緒に行くのか?」 「…それぞれが、というわけにはいかないわね」 実家への報告…夫のみならず、小枝にとっても気が重いことではあった。
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