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夫と過ごした二日間、小枝は携帯をマナーモードにしていたが、夫が側にいる時の貴彦からの着信にはヒヤヒヤした。
翌日の月曜、朝一番、小枝はN市駅に降り立った
離婚に際しての様々な手続きに関して、彼女の持つ知識では立ち行かないと考えていた。
相談できる人物は唯ひとりだった。
駅前で9時を回るのを待ち、貴彦の名刺を取り出した小枝は、事務所の代表に掛ける。
電話に出たのは若い男性だった。氏名を名乗り、榊の名を告げると直ぐに切り替わる。
小枝は、記憶の隅にある榊の個室を思い浮かべた。
「小枝さん?どうしたの?」
小枝からの電話に、榊は嬉しさ半分と戸惑いもあった。
「榊さん、この前はいろいろありがとう…あの、彼はもう事務所に出てるの?」
榊は内心驚いた。まだ連絡をとっていないのかと。
「…あいつは、先週の水曜から午後だけ出てきていたよ。僕はまだ早いと思って止めたんだが。
どっちにしろ、あの頭に毛が生えるまでは顧客の前には出られないから、書類仕事だけさ。
金曜は検査とかで来なかったが…今日はどうかな」
榊の詳しい説明に、小枝は少しばかり安心した。仕事に向かう意欲はあるのだと。
「そう、良かった。順調に回復して欲しいわ。私がその邪魔をしちゃったから」
「小枝さん、あいつは大丈夫だよ。タフだから。
それより、今日はどうしたの?」
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