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「あ、お忙しいのにごめんなさい。あのね、相談に乗って欲しいことがあって、今N市駅前に来てるの。
ほんの10分ほどでいいんだけど、手が空くのは何時ぐらい?」
榊はまたしても驚いた。
「え?来てるの?なら直ぐにおいでよ。今なら全然大丈夫だよ」
榊は大丈夫でなくても実際そのようにして、小枝を迎えに事務所を出た。
事務所ビルに着いた小枝は、エレベーターで降りてきた榊に、笑顔で手を振る。
彼女を見た榊は、また痩せたなと思ったが、笑顔を崩すことはなかった。
「わざわざありがとう」
「なになに。それで?どんな相談なの?」
エレベーターに一緒に乗り込み、榊は、改めて小枝を間近で見つめる。出会った頃より更に綺麗になったと思った。
貴彦の成せる技かと、妬ける思いだった。
「…離婚の件で。夫との話し合いは済んで、手続きを任されたので、その相談に乗ってもらいたくて。
ちゃんと料金は払うので、友達だからって手抜きしないでね」
小枝は明るく言い通したが、内心は緊張感でいっぱいだった。
事務所に入ると、スタッフの男性が席を立つのを榊が制し、友達だからと告げ、自室に小枝を案内した。
榊の部屋に入る時、小枝はチラッと貴彦の部屋に目を遣る。
ガラス越しに目にした窓際の観葉植物が、主が不在でも青々と葉を広げ、生き生きと茂って見えるのだった。
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