決意

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小枝を自室のソファーに座らせると、榊は自ら給湯室に入り、お茶をいれてきた。 先ほどのスタッフが行きかけたのをとめて。 小枝は、榊の意外なもてなしが嬉しかった。 ひと口飲むと、温かい緑茶は久しぶりだと思った。おいしい、と呟くと、榊はにっこりと笑った。 「今日は、女性のスタッフさんは出掛けているの?」 事務所内に祥子の姿が見えなかったため、それとなく榊に尋ねてみた。 「あぁ。静かだろう?君は良いときに来たよ。彼女らに見つかったらいろいろうるさいから。 今日は一人が休みで、もう一人は出先に直行なんだ」 「そうだったの」 恐らく直行したのは祥子かなと、小枝は、以前貴彦から聞いた職場の彼女らを頭に描いていた。 「あ、そうそう。これ」 小枝は、持っていた小さな手提げ袋を差し出した。 今朝方駅前で、小さな観葉植物を買っていた。榊に渡すつもりで。 榊は大感激でそれを受け取る。 「榊さんにはいろいろご迷惑をおかけしたので」 小枝は半分照れながら言った。 「迷惑だなんて思ってないよ」 榊はつい、小枝への愛しさが抑えきれず、そんな眼差しを彼女に向けてしまった。 小枝は、その眼差しを榊の友情と受け取る。その瞳の中の熱情を少しも疑うことはなく。 「それと、これ」 小枝が再び差し出したのは、新品ながら無包装のハンカチだった。 「貸して頂いたハンカチ、付いてしまったお化粧が取れなくて。同じメーカーのを買ったの。 あの時は本当に…」 小枝はペコリと頭を下げた。 「…そんなの良かったのに。でもありがとう」 榊は、いろいろきちんとしている小枝らしい心遣いに感動していた。 こんなふうに、思いがけなく、さり気ない贈り物は生まれて初めてだった。 こちらこそ、と小枝は少し照れながら返すと、バッグの中から 封筒を取り出した。 「それじゃあ、本題に」
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