決意

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「これは?」 小枝は、封筒から一枚の書面を取り出し、榊の前に置いた。 「こういうことになりました」 あぁ、そうだったなと、榊は、記入済の離婚届に釘付けになる。 「それじゃあ、親権などの手続きをと言うことなんだね?」 「ええ。自分でできることはするけど、まずなにをしたらいいのか…。その辺りのことを教えて欲しいの。 それと、証人欄の記入もお願いしたいと思って」 「OK。すぐ書くよ。もう一人はさっきの奴に書いてもらおう」 榊はデスクに立っていき、メモ用紙を持ってくると、スラスラと書き始める。 時々小枝に質問をしながら、小枝のケースで考え得ることを項目に書き出し、一つずつ説明を加える。 小枝は届け書類を榊に預け、自身の今後の動きを反芻した。 「ありがとう。よく分かったわ。ここに相談に来て良かった」 「本来の業務ではないけど、請け負ったこともある。任せて」 小枝は心からホッとしていた。 証人欄記入を含め、急ぐことはないから、仕事の合間やついでにやって欲しいと付け加える。 話が済んだところで、榊は最初に聞きたかったことを尋ねる。 「ねぇ、小枝さん。この件は三井に任せなくて良かったのか?」 「彼…その時には是非とやりたがっていたわ」 小枝は思いつめた目で榊を見つめ返し答えた。 榊は、そうだろうと思った。 「でもこれは、私と夫の問題なの。そうでなければいけないと思う。 だから自分でやりたかった。きちんとして、それから悩むことは悩もうと思ったの」 榊は小枝が眩しかった。貴彦のことは乗り越えたのか、とも思った。 それは、本意ではないが、失意にも似た感情だった。 「そうか、君らしいな。 …でも、もうこれ以上は悩むなよ。 ほら、骨と皮だけじゃないか」 そう笑いながら、榊は小枝の手を取る。 小枝は、榊に手を取らせたまま笑うと、久しぶりに声を立てて笑った気がしたのだった。
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