決意

17/26
前へ
/334ページ
次へ
何かあれば、いつでも相談に乗ると言い、榊は自分の名刺を小枝に渡す。 「こういう時のお支払いはどうするの?」 「僕は友達と金銭のやり取りはしない主義なんだ。最初に言わなくて悪かったけど」 小枝は榊の言葉は率直に嬉しいと感じたが、駄目、と軽く叱るように言い返す。 二言三言やり合ってから、結局、実務的なことが済んだら請求書を渡すということに。 二人は携帯の番号を交換し、この日は別れた。 時刻は11時を大きく回っていた。 小枝は駅に向かって歩き出す。 だが、改札前を通り過ぎコンコースを抜けると、モノレールの駅へ昇る。 小枝は、貴彦の元に向かっていた。 今日こそ貴彦に会おう──やっとそう思うことができた。 数日来、離婚を進めていきながら、小枝は、自分の人生を生きることを改めて考えていた。 大切な人たち──子ども達と貴彦。 許されるなら、5人で生きていきたいと。 貴彦に会いたい一心で、榊と事務所ビルの前で別れてから、一歩歩む毎に思いが募る。 (そろそろ貴彦さんから電話が掛かってくる。その前に…) 小枝は気が急いてならず、彼の駅に着くと殆ど駆け足でマンションに急いでいた。 大通りを曲がり、緑地帯の側道に入った時に携帯が鳴り出した。 小枝は歩みを緩め、バッグに手を入れたものの、携帯がなかなか見つからず、周囲に着信音が鳴り響く。
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加