決意

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以来、年に数回なにかしらはあったけれど、医者の見立ては外れ、私は大人になることができた。 だけど、結婚して子育てに忙殺された日々を暮らすうち、いろいろな症状が噴出してきた。 毎晩、疲労困憊して床につく時、その日一日を無事に終えたことを神様に感謝した。 それと同時に、翌朝、永遠に目覚めないかもしれないとの不安を胸に眠りについた。 100歳の老人が静かに息を引き取るように、いつかこの心臓の鼓動がフェードアウトするような不安。 恐ろしい生き物が体内で静かに育っているような恐怖…。 そんな不安と恐怖を日々感じながら生きていた私の心を知るひとはないけれど、例え知らせてなにかしらの助言や励ましをもらったところで、私の不調や不安や恐怖をなくすことなんてできなかったと思う。 それが、その不安を、彼と出会って以来のこの5ヶ月、一度も感じなかった。 なぜか、彼との幸せな人生を年を重ねて動けなくなるまで、共に歩いていけると思い込んでいた。 貴彦さんのプロポーズを受けてからは、なんだかいつも見守られているようで、安心感があって。 やっと…あの医者の言葉から開放された気がした。 なのに、貴彦さんにあんな秘密があったなんて…ショックだった。 なにかを隠されているとは薄々感じてはいたけれど、私の思いだけで越えられないようなことだなんて、と。 あの軽井沢の別荘で感じた格差は、やはり気のせいや疲れのせいではなかった。
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