決意

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あの時は、私の発想の元となったある物語を思い出したのだっけ。 貧しい小作人の娘とお殿様の物語。 晴れて結ばれ、一時は幸せに暮らすものの、数年後、娘は気が触れお郷に戻された。 娘の年老いた父は、所詮生まれというものは変えようがないことなのだと、悔しさを滲ませて物語は終わる──。 この時、私は中学生ぐらいだった。この物語はなぜか深く印象づけられて、私の中に格差というものの基本的な考えと価値観を植えつけてしまったのかもしれない。 貴彦さんは、娘さんを守りきれなかったあのお殿様ではないのに。 私は、好きなひとに愛されることしか見えてなかった、あの娘さんでもない。 貴彦さんからの言葉を待とう。 私たちが、格差などという実体のない魔物に負けるなんてあり得ないのだから。 でも私は、彼がなんと言おうが決意は揺るがないけれど。 そう、もう決意したのだ。彼との人生を。 彼と一緒に生きていくのに必要なのは、彼を信じきることなのだと思う。 数日前までの私は、勝手に駄目だと決めつけて、この愛を諦めてしまった。 だけど、彼を失い夫と暮らし続けることは、例え長く生きていられたって虚しいだけ…。 子ども達に胸を張って言えない…幸せになりなさいって。 母親の幸せな姿を見せずして、何が幸せかをどう示すのか…。 私の出した結論は、幸せになりたい、ただそのこと。 子ども達、貴彦さん、そして夫にも、幸せをと願ってやまない…。
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