決意

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「小枝、どうした?」 長く黙ったままの小枝に声を掛ける貴彦。 「ん…幸せに浸ってたの」 「僕も、幸せだよ。会いに来てくれてありがとう」 「…待たせてごめんなさい。こんな時に…」 小枝は、貴彦の頭に手を伸ばして優しく撫でる。 貴彦は首を横に振って、笑顔を見せ、大丈夫だと請け負った。 ゆっくり身体を起こした貴彦は、真剣な表情で小枝の手を握る。 「小枝、僕と結婚してくれる?」 二度目のプロポーズだった。 小枝は、にっこり笑って、はいと返事をする。目尻から涙が零れた。 * 貴彦は、ベッドを後にシャワーを浴びに行く小枝を見つめていた。 小枝の持つ空気感と極自然な振る舞いの一つ一つが、貴彦を癒し幸せを実感させる。 小枝から離婚に足を踏み出したと聞き、そうなれば半年後には一緒になれると思うと、浮き足立つ気持ちを漸く抑えるのだった。 (そうなるために通らなければならないことを僕はなに一つ話していない…) 貴彦は小枝のためにお茶をいれ、ソファーに寛ぎながら、内心は対峙していた。 他愛のない話でひとしきり笑ったあと、気持ちを切り替え真顔になる貴彦。 「小枝、聞いてくれる?あの日、兄から聞いたことを僕からちゃんと話しておきたい」 その言葉に、小枝の笑顔が一旦引っ込んだが、優しく微笑んで頷いた。 貴彦は手のひらで彼女の頬をそっと撫でた。
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