決意

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「僕は最初からそのことを君に隠して来た。 だけど君は勘が良くて、やはり度々誤魔化しているのが自分でも嫌になったよ。 それでも言えなかったのは、君を失いたくなかったのと、家のことを知られるのが恥ずかしかったからなんだ。 …僕は、本当の意味で君を信じきれてなかったのかもしれない。例え君が別れようとしたって、僕が諦めなければ必ず君にわかってもらえるってことを。 いつか言ってくれたね。何が起こっても君を絶対に諦めないでって。 その言葉通り、まっすぐに信じれば良かったと今は後悔しているよ。 あんなタイミングで他の人間から聞かされた君の気持ちを考えたら…」 ごめんよ、と貴彦は再び小枝の頬を優しく撫で、話を続けた。 「…高校入学と同時に家を出たと言ったよね。 中三の時に父の言葉に激昂して…すごい喧嘩になってね。高校入学を機に家を出ることにした…限界だった。 僕は、父と縁を切りたかった。家のことに振り回される人生なんて恥だとも思っていた。 だから、できるだけ早く自立したかったし堅実な職業でやっていこうと、そればかりを考えていたんだ。 仕事が波に乗ってからは、余計なことを考えず、ただひたすら働いた。親の庇護も財産もいらないことを証明したかったんだ」 黙って聞いていた小枝は、貴彦の苦悩を改めて知り、同じ苦しみを負っているような気持ちさえしていた。
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