決意

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貴彦の告白は続く。 「大学の卒業直前、榊に誘われて一緒に開業の道を決めた矢先だった。 兄から父の事業の一つを受け継いで欲しいと打診があったんだ。恐らく、この時に僕が受けなかったことで、父や兄が何がしかの損失を負ったことと思う。 それがあって、断る時に本来の遺留分を生前贈与させろという条件付けを僕は飲むことにした。それで他人になれるならってね」 ため息をつく貴彦。 「…君は知りたくないだろうが聞いてくれ。 事務所の入っているビル…あれは僕がオーナーなんだ。元々は父の所有だった。 それから、ここのマンションも。有価証券は現金化してあちこちに分けて寄付した」 一気に話して、小枝?と、彼女の顔色を伺う貴彦。 小枝は一度頷いてから尋ねた。 「それでおしまい?」 貴彦は少しの間をおいて切り出した。 「実は、あの軽井沢の別荘だけど…」 小枝は、ああ、と頷いた。 「あれはお父様のだったのね」 小枝はなんとなく合点がいった。 「兄からあれを受け継がないかとずっと言われてるんだ。 あの時、君をそこに連れて行ったのは、もし君が気に入ってくれたら受けてもいいかと考えていた」 小枝は驚き、胸に手を当てる。 「貴彦さん、あの時って…まだ婚約もしてなかったのよ。会ったのもたったの二度で…」 貴彦は愛情深い眼差しを小枝に向け微笑んだ。 「僕は、あの時既に君との将来を思い描いていた」
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