決意

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そうだったの…と呟き、小枝は言葉を失った。 貴彦がこんなにも自分を愛することを初めから不思議に感じていた。 「小枝、良かったらあの別荘、時々使ってみないか?」 今回の貴彦の申し出は、小枝にとって難題ではなかった。 「あなたには思い出の詰まった場所なのでしょう?あの時のあなたの表情は、なんだか楽しげだったわ」 貴彦の笑顔が弾けた。 (お兄様はきっと、貴彦さんの思いを知っていて、受け継いで欲しいと仰ったのかもしれない) 小枝は、こんなにも深い家族の愛情に、貴彦がいつか気がついてくれることを祈らずにはいられなかった。 「貴彦さん…話してくれてありがとう」 小枝の中にあった、暗雲の正体はなんだったのか、彼女の心は今や晴れ晴れとしていた。 長くそこにあったものが、案外呆気なく姿を消すことがある。 ひととの関わりの中に、そのようなものが存在することがある。 所謂、固定観念のようなもので、人間関係の中で生まれたものは、やはり人間関係の中で昇華させなければならない。 また、持たざるものは、そのものの正体を不審に思うこともあり、憧れのあまり見誤ることもある。 ただ、ものの正体を価値とするかどうかは、本人の生き方次第なのだと、貴彦は暗にそう語っていた。
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