決意

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価値を価値とする。正しいかどうかというより、人は幸せを何に求めるのか。 それまでの貴彦は、独善的に生きていた。 自己愛すらなく、幸せ探しよりも父親と家からできるだけ遠くに居て、仕事に生きがいを見出すことを主題に生きてきた。 本来の愛情を受けながらそれを認めず、偽善だと真っ向から拒否してきた。だから見えなかった。 自分の周りの愛と人間性を否定しながら、反面、無意識に愛を求めて灰色の世界をさ迷っていたのだった。 小枝との出会いは、あまりに突然で、貴彦は無防備でいた。 それは春の訪れのように、当たり前の約束のようだった。 貴彦の世界をガラリと変えたのは小枝の存在なのは確かだが、実際その本質まで変えたのだろうか。 否。ひとの持つ本来の基質はそう変わるものではない。 貴彦自身に認識はないが、愛を他者に注ぐ容量は、既にその身に満たされていた。 認識せずとも、愛で世界を救うことも、ただひとりのひとを愛することも心一つ。貴彦には容易いことだったのだ。 時が満ちた、ということだったのだ。 *第一部終了
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