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あの、スーパーでの一件以来、小枝はある思いにとらわれていた。
『あの店員のように、男性からのほめ言葉や甘いささやき…もう何十年も言われてない。そう、夫からも…』
小枝自身は“おばさん”と呼ばれることに何ら抵抗がなかったにも関わらず、実際、彼女の見た目は年令より若く見られている。
男性からの視線を感じたり、目が合うことも度々あった。
PTA・地域関係・行きずりの電車内…。
ほとんどが同世代の男性だ。
なぜか目を逸らされず、視線を絡ませたりするものもいた。
ただこれについては、彼女の視力があまり良くないため、視線が合ったと自覚するまで相手の視線をホールドしてしまうのだろうと小枝は解釈していた。
だから絡み合った視線に意味などないのだと…。
それなのに変にドキドキするようなそんな視線と出会ったりすると、時としてその情景が記憶に刻まれる。
変わり映えのない日々の中、ふと思い返してはあわてて蓋をする。
やはり自意識過剰だと、自らを諫める彼女の胸の内を知る者はない。
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