彼とあの人

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ダンスフロアをキラキラと照らす、色とりどりのライト達。 大音量で流れる音楽と、沢山の人の熱。 一度その中に入れば、大人だろうか子供だろうかなんて…関係ない。 隣で踊れば他人でも見知った顔になる。 だけど一度離れてしまえば、赤の他人。 あくまでも踊りに来ている私にとっては好都合な関係。 『この後どうかな…』なんて誘われたら、迷惑過ぎて堪ったもんじゃない。 だってこんなとこで出会いを求めるつもりなんて、最初から考えてないもの。 それに私には、ちゃんと彼氏がいるし… 私がここに来るのは、ストレス発散のため。 彼は私がここに行くことを、あんまり良くは思ってみないたけど…。 赤いピンヒールが、歩くたびに私の存在を周りに教える。 次々に振り向く人達。 何人かが手を上げて私に居場所を伝えるけど誰…? 知らない人の挨拶に答えることもなく、フロアの真ん中に移動する。 ゆっくりと徐々に曲に合わせてカラダを揺らす。 踊りはじめると、すぐに腰に回った誰かの腕。 しばらくしたあと、その腕をすり抜けてバーカウンターに座った。 「茜さんもう踊らないんすか?」 すっかり顔見知りになったバーテンが、いつも飲むお酒を注文するまえに出してくれる。 「・・・休憩よ、休憩」 「珍しい」 フッ…と小さく鼻で笑ってみせる。 「歳かしら」 「またまた(笑)」 赤色のお酒が入ったグラスを持ったまま、回転式の椅子をフロアに向ける。 ちょうど目に入るのは人で溢れ返ったフロアと、VIPしか入れない2階の部屋の大きな窓。 「…誰か来てるの?」 あまり開くことのないカーテンが遭いてるのが気になって、後ろにいるバーテンに聞いてみると、案の定 「そりゃあV.I.Pですよ」 って当たり前の言葉が返ってきた。 あんなところからフロアを見下ろして何が楽しいの?! 全くもって理解不能。 「・・・…意味が分からない」 そう言ったとき、一瞬だけ…ライトの光が窓の中を照らし出した。 そのたった一瞬に見えた、深い青色の瞳。 海の底みたいな 深い 深い 青色。 吸い込まれるように、目が離せない。 もういないかもしれないそこを、馬鹿みたいにじっと見つめ続ける。 さっき見えた人がどうしても気になって、クルリとバーテンの方に向き直った。 「あの部屋にはVIPしか行けないの?」 「気になります?」 『気になる』とは言いにくい。 「……少しだけね」 私の返事に、待ってましたと言わんばかりに彼が笑った。
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