5人が本棚に入れています
本棚に追加
「あそこにいる子達を見れば分かりますよ」
彼が顎で差した先には、私よりいくらか若いであろう3人組の女の子。
じっと見ていると、コソコソと何かを話し合ってるみたい。
しばらくすると話し合いを終えた彼女たちが、躊躇いがちに2階へ続く階段を上がっていった。
「ね、普通の人でも行けますよ。利用することはできませんけど。…まっすぐに降りてきますよ」
彼の言ったことは、少し私にとっては難しく首を傾げる。
「どうして?」
素直に聞いてみたのに、彼はなにも答えてくてない。
何かを待つかのように、視線を磨いていたグラスから階段の方に向ける。
「…グラス、落としちゃうわよ」
「慣れてますんで」
スルーされるかと思っていたから、答えが返ってきたことに驚いて言葉が詰まる。
「・・・…そ、そう」
「あ、ほら…来ましたよ。いつもより早かったなぁ」
振り返ってみるとさっきの女の子たちが、今さっき上がっていったはずの階段を下りてきたところだった。
でも、明らかに様子がおかしい。
真ん中にいる子を支えるようにして、3人が下りてくる。
…あの子もしかして、泣いてるの?
まさか……
そのときフロアを迂回した彼女たちが、こちらに来ているのが分かった。
グラスを待つ手にキュッと力を入れて、何もみていないかのようにフロアのオーディエンスを見る。
3人がひと席あけて横に座ったのを目の端で確認してカウンターにカラダを戻した。
「マジでありえないんだけど…っ」
「かっこいいからって、あんな風に言うことないじゃない!!」
「ホントそれ!幻滅したわー」
「…ふた、りとも・・そんなに、…悪く、言わないで…っ……」
泣いている小さな彼女の声は聞こえなかったみたい。
そんなのお構いなしに言われ続ける悪口。
「調子乗りすぎだっての」
「イメージ超崩れた」
「私もー」
他の二人が愚痴りあっている間に、彼女は落ち着いてきたみたいで
「でもやっぱり、すごく・・・かっこよかった」
なんて場違いで馬鹿なことを呟いた。
何それ……?
あんた馬鹿なんじゃないの?
なにを言われたのかは知らないけど、酷いことを言われたんでしょ。
もう少しで出そうになったその言葉を、グラスの中のお酒と一緒に喉の奥に流し込んだ。
その声は聞こえたらしい2人も私と同じことを思ったみたいで、容赦なく彼女の言ったことを否定していく。
「何言ってるのよっ!顔はかっこいいけど、あんなの…最低じゃない」
最初のコメントを投稿しよう!