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藍は、ずっと1人だった。長い時間、たった1人で暮らしてきたという。そこに嘘がないのは、痛いほどわかる。
『あいね、いますっごくしあわせだよ!』
本当に、心からの言葉。
「……俺達も、幸せだよ、藍」
「アイ!」
その笑顔の前に、2人はなにも言えなくなってしまう。
自分たちは藍のことを、全くと言っていいほど知らなかったんだと思い知らされた。
だからこそ、これから知っていきたいと思ったんだ。みんなで、一緒に。
せめて藍の言うことには出来る限り応えてやろう。それが今自分たちが出来る、『出来る限り』のことなのだから。
『ねぇ、パパ、ママ』
「なんだ、藍?」
『ききたいことがあるの』
早速のお願い事だ。ならば、応えてやろう。それが親の役目でもある。
「なんだ? 何でも言ってみろ」
『パパとママは、いつ“けっこん”するの?』
──刃と光、2人の時がピタリと止まった。
『パパ? ママ?』
藍にとっては純粋な疑問らしい。なんの含みもないことは、流れ込んでくる燈気からわかる。
「…………な、なんでそう思うの、藍?」
かろうじて光が返すと、
『りゅうとがよんでくれた“えほん”にかいてたの。パパとママは“けっこん”してなるんだって!』
水仙流斗。刃と光の幼馴染みであり、藍ともよく遊んでくれているこの状況の数少ない理解者だ。しかし、今はそのことで生まれた誤解を解かねばならない。
刃と光はお互いに目を合わせて頷いて、もう一度藍に向き直る。
「……あ、藍。じ、実は俺達はな、け、結婚てのは……その……」
『……?』
純粋無垢な疑問の念。それが2人の心に突き刺さる。
「……えっと……」
『…………しない、の?』
こちらの雰囲気を感じ取ってしまったのか、悲しげな表情。
「い、いや、そういうわけじゃ……」
『じゃあ、するの?』
「……っ!?」
いったいどうすればいい。この窮地を脱するにはどうすれば……!?
そう刃が頭を抱えたときだった。
「あ、安心しなさい藍! わ……私達、け、けけけ、結婚……する……から……」
「ひかりさん!!!?」
隣から超弩級の爆弾が飛んできた。
『ほんと!?』
「ほ、ほんとよ!」
「おいおいおいおい待て待て待て待て!!」
刃を置き去りにどんどん話がやばい方向に進んでいるのを感じ、光を藍に声が聞こえない位置まで誘導する。
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