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   菅原とは縁もゆかりもない他人。ただの敵だ。だけど、人が死ぬのはやっぱり悲しい。  それでも心の裏がいう。 『良かったじゃないか幸太郎。憎かったんだろう、菅原が。死んで良かったな』  確かに潰したかった男だけど、命のやり取りをした男でもある。  戦い終われば憎しみはない。  出来れば酒でも飲みたかった。  もう叶わない菅原との交流。  武田は、菅原の握っていた刃物を拾い上げた。  悪魔のように冷たくいい放つ。 「菅原は逝ったのか。手間が省けたな」  死者にむちうつ冷たさに、怒りがわき上がった。爆竹のように何かが破裂した。  おれは右足のズボンを捲った。  膝からくるぶしまでに収まるよう、長さ四十センチ位の木刀を、マジックテープで固定していた。  もしもの時の、武器のつもりで用意したモノだ。左手で握り、鬼から悪魔に堕ちた武田に向ける。覚悟しろ、武田よ。  
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