38/94
前へ
/284ページ
次へ
  「なんだそりゃ、木刀か。  また面白いオモチャ持ってんな、探偵よ。  木刀VSヤッパ、さてどっちが強いかな。  木刀は骨を折るのがせいぜいだが、ヤッパは命取るぜ」  悪魔は片方の口角を上げる。拾いあげた菅原のドスを握りなおす。そして冷たい凶器をおれに向けた。  おれは革靴を脱ぎ捨てる。  両足を肩幅に開き、膝を軽く曲げ体の力を抜いて立った。左手で握った木刀を、水平にして顔面を隠す。  これは戦国時代、剣聖と呼ばれた塚原卜伝(つかはらぼくでん)があみだした極意の一つ、『見越三術(みこしさんじゅつ)』の型だ。  顔を隠すと相手が見えないので不利に思われるが、試してみるとそんなことはない。  手前はボケるが、相手にはピントが合う。逆に相手はこっちの表情を読むことが出来ない。 (武田よ、気をつけろ。  木刀に隠れた今のおれは、藪に潜む猛獣と同じだぜ)  
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

494人が本棚に入れています
本棚に追加