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「お嬢…?」
「それ以上は駄目。皆が聞いてる。」
そう。ここは学園内であり、さらに今は昼食時。
銀次達のいる廊下を含め、その奥の教室にも当然生徒は居る。
武闘派集団『黒澤組の次男坊』という肩書きは、いやでも必ず付いて回り好奇の目に晒される。
その視線は、友好的なものだけとは限らない。それ故に、下手な言動は銀次の首を絞める事に繋がる。
案の定、何人もの好奇の目が銀次達に向けられていた。
「…悪い」
銀次は嫌々ながらも怒気を収めた。
「…その女がいるから…」
声を出したのは黒髪ロングヘアの『ミク』。
ボソリと呟くように言われた言葉は、周りの喧騒に掻き消され楓や銀次の耳には届かなかった。
しかし、その目は射殺さんばかりに楓を睨みつけていた。
「…。」
そして、その異様な視線に楓だけは気付いていた。
銀次と連むようになってから何度もこれと同じものを経験してきた楓だからこそ気付く。
これは『嫉妬』だ。
銀次に恋い焦がれ、近づきたいのに近づけない。
傍にはいつも楓の姿がある。
銀次の隣は楓の指定席。いつしか、それが当たり前になっていった。
その事に納得出来ない女の子達の嫉妬の目。
時には、その気持ちを抑えきれずに行動に移す子もいた。
直接してくる子もいれば、そうでない子もいた。
(…面倒な事だ。)
楓は、ふぅ…と溜め息をつくと、自分の前に立っている銀次へと視線を向ける。
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