第1話

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さすがに寝てるから掛けていかないとなぁ、キーケースには車の鍵ともうひとつある。 これが家のだろうなぁ。 鍵を取って靴を履く。 ここは暑いくらい暖房を効かせてあるけれど外は寒いはず、だって今は12月。 カバンの隣に置いたコートを着込んで一度部屋の中に目を向けた。 おぉ、随分ぐっすり寝てんじゃねーか なんか腹立たしくて部屋を出、鍵を掛けると郵便受けから鍵を投げ入れた。 ガチャンとドアの内側で派手な音を立て落ちたようだが構わず歩き出す。 このアパートの二軒となりに手作りが売りのハンバーガーショップがあり、そこへ向かう。 あそこのコーヒーは少々お高いが美味い。 今日はちょっとくらい高くてもいい。 寒さに身震いする。 今日は風が強い。玄関の反対側から吹き込む風が冷たくて空いた指先に息を吹き掛けた。 口元から離した指を見て、昨日あいつがこの手を綺麗だと言って握ったことを思い出してしまった。 背筋がゾクッとした。 あー!あー! 心中で叫び、足早にハンバーガーショップへ駆け込んだ。 食欲はなく、コーヒーだけ頼んでガラス張りの外が見える長テーブルの端に腰掛けた。 どんなに酔っても記憶はしっかりある。 今までそれでよかったんだけど今は、いや今朝は忘れててもよかった…ような… 暖かいコーヒーカップを両手で包み琥珀の液体を見詰める。 なんだよ、なんなんだよ、もう。 全然気が付かなかった、何で分かんなかったんだろう、俺。 知ってたら誘わなかったのに、昨日。
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