第1話

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飲み干したコーヒーカップの底にはこの店の看板にも描かれている、なんだ、ありゃ、ウサギか?まあ、そんな感じのマークがプリントされていた。 あーちょっと落ち着いた。さー、どうしよ。これから… ここを出て右に曲がれば青葉宅へ向かうホモ街道、左に曲がれば平穏な日々。 ただ左に曲がればもう青葉は顔を合わせてくれなくなるだろう、きっとそうする、予感がある。 … … とりあえず外は寒いからコーヒー、テイクアウトしよ。 店の外に出で暫く立ち尽くす。 今、ここ、このなんてことない只の歩道、俺にとっては運命の分かれ道的な感じなんじゃ… 何となく苦笑いして、右を見ると物凄い勢いで人が飛び出してきた。 あわあわ右左に首を振ってるあれは、…あ、やっぱり青葉だ。 この寒いのにジャージで俺を見止めた青葉はまたも凄い勢いで走ってきた。 俺の目の前で止まった青葉ははあはあと、二度肩で息をしてそしてはぁーと大きく深呼吸した。 「あ、」 「おはよー、じゃなくておそようだな」 「あ、……うん、えっと、おはよう」 律儀に頭を下げる青葉に二つ買ったコーヒーの一つを渡した。 「ありがとう。……逃げられたかと思って、」 「……」 受け取ったコーヒーの紙容器を両手で握った青葉はうつ向けた顔に哀しげに見える微苦笑を浮かべた。 「僕は、昨日の事を…謝った方がいいのかな?」 聞き取りにくい程の小声で呟いた男の足元は色の違う、や、種類まで違うモノ…右はサンダル、左はスリッパ(確か俺に出した部屋用の)だった。 必死だなー そう思って顔を見ると何となく可愛く見えるから不思議だ。 「なんで?両思いなんじゃなかったの?」 コーヒーを二つ買ってなお迷った俺の背中を押したのは左右別の履き物を履いた青葉の足だった。 みるみる明るくなる表情に幸せを感じて俺は青葉宅行きホモ街道をジャージの男と手を繋いで歩む事に決めた。 まあ、そんな人生もありだろ。 End
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