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初めて話をしたのもベランダでした。
『そこ暑くないんですか?』と私が訊いたのが始まり。
そこ、というのは彼がもたれたカンカンに熱せられた真夏のベランダの柵。
うん?とこっちを見た彼の目は、いつも通りに眠たげで。
長身痩躯、少し長い前髪。
のんびりした彼は、そのままそこへ寄りかかってたら、いつか目玉焼きになっちゃいそう。
『めちゃめちゃ暑い。』
少し笑って、ちょっと驚いて、そう答えた声は関西の訛りを含んで。
『暑すぎて、逆にもうここから動く体力がないねん』
二歩も後ろに下がれば日陰があるっていう狭いベランダの、まぶしい直射日光の下。
変わり者であまのじゃくなこの男が、これから先何度となく 私に見せることになる、これが一回目の、悪戯っぽい笑顔。
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