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「お先に」
そう言って後にしたオフィスから外に出ると、空は柔らかなアメジスト色をまとっていた。
今日はクリスマスイブ。
その日を大事にするこちらの人々は、仕事も早々に切り上げ、家族や恋人、大切な人と穏やかにその夜を迎える。
冬のフィンランドは日照時間もごく短くなり、午後3時前だというのにもう夜の気配すら携えている。
返事をしないままの携帯はバッグにしまい込んだ。
東京はもう、雪は降っただろうか。
華やかなイルミネーションの輝く夜を、懐かしく思う。
温かなオレンジや黄色の光だけがシンプルに明かりを灯すこちらの夜。
だからこそ―
自分の中にある想いに気づかずにはいられない。
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