クリスマス・エクスプレス

事務所の立ち上げまで、と言われていた赴任期間が過ぎても、日本には戻らなかった。

『お前、まだそっちにいんの？』

届いたメールには返信しなかった。

2日後、今度は電話が来た。

『お前、帰ってこないんだって？』

心なしか怒ったような声に、うん、と短く返事をした。

何で？という問いかけには最後まで答えなかった。

本音はずっと今日まで誰にも言ってはいない。

言葉にしたらもう、後戻りできなくなってしまう。

『いいとこだよ、ヘルシンキ』

そう言って笑った私に、彼は、あっそ、とだけ言ってプツリと電話を切った。