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「そうだ」
カナさんは、思い出したように
ポーチを開け、名刺を取り出した。
「ねえ、萌ちゃん。
これ、春山くんに
渡してくれる?
サービスするから、
良かったらお店に来てって。
電話くれるよう、
言ってくれないかしら」
差し出された名刺は、
角の丸い、不思議な
形のものだった。
淡い花模様に囲まれた中央には、
細い文字で店の名前と、
華奈、という名前が
入っている。
わたしが受け取ろうとすると、
カナさんはひらりと
その手を避けた。
「やっぱり、わたしの
携帯の番号も書いておこうかな」
カナさんは向かいの席に戻ると、
ポーチの中から花柄の細い
ボールペンを取り出した。
「一緒に、本名も書いておくわね」
長い指が、やや丸みがかった
キレイな文字を描いて行く。
「カナ、っていうのは源氏名だから、
春山くんに言っても
誰だか分からないと思うの。
私の本名は、カオリ。
――桐生カオリ。
そう言えば分かるから」
グロスで輝く魅力的な唇を
突き出すようにして、
カナさんはとびきりの
笑顔を見せた。
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