夢追いの都☆ウィルタータ~プロローグ~

2/8
前へ
/18ページ
次へ
ある国とある国の境になっている街道にあたる風鳴峠に、精霊と対話する事が出来る精霊使語師【シャーマ・ラーサ】の一族のみが暮らす平和な国があった。 しかし、精霊を知らず感じぬ者には、その国は決して見つけられなかった。 何故なら、ある精霊が国守護者【ガーディアナ】として都を守っていたからだ。 ……………☆…………… その風鳴峠に、草達が沈黙する中、大勢の足音が響く。 剣や飛び道具を手にした軍隊だ。 峠の頂上に着くと、一人が前に進み出て両腕を広げると何か呟く。 すると!目の前に風が渦巻き、大勢のマントをはためかせる。 風が去るとそこには大きな門が現れ、兵達がざわめく。 この門には扉がなく、アーチ状の構えだけ。 門の中には道が続いているが、角度を変えて裏から見ると門は存在せず、軍隊が見えるのみだ。 その見えない門がどんどんと軍隊を吸い込んでいった。 平和な国、ウィルタータに外の国からの侵略が開始されたのである。 軍隊の先導をしているのは一人の精霊使いだった。その男は風で都の術者を次々と蹴散らし、軍の隊長とおぼしき兵士とともに大通りをずんずん進んでいった。 その頃、王宮の中では国王と王妃が漆黒の髪の赤ん坊を、他者に託すところだった。 「この子を…今まで都を守護してくれたように…、これからはサミラを護ってやってください。…お願い…」 王妃は涙目になりながら赤ん坊をその女性に渡すと、顔を背けた。 「都の守護者【ガーディアナ】でありながら、今は何も出来ない我々を許してください…。あの精霊使いには、我々の捕縛が効かないのです…」 女性は寂しそうにブルーグレーの瞳を伏せて、王妃の背を撫でる。 「ルフィアス。解っているのだろう?その者が誰なのか…」 「はい…」 申し訳なさそうに女性・ルフィアスは国王と向き合う。 腕の中で笑う赤ん坊に、二人は薄く微笑む。 「わしの考え通りならば、この国に先は無い」 国王の瞳に影が浮かぶ。 ルフィアスは、ただ頷く。そして、そっと口を開く。 「国王、ウィルタータはまた始まるのです。サミラ様の元で」 「そうだな…」 赤ん坊のサミラは笑顔を振りまき、三人の心を和ませる。 そこへ向かって、あの精霊使いが長い階段を登って来ていた。 いち早く気づいた国王は見渡すように顔を上げ、ルフィアスの肩を押す。 「急ぎなさい、ルフィアス。来るぞ!サミラを…都を頼むっ」 深く頭を下げる国王に、ルフィアスは頷く。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加