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ある国とある国の境になっている街道にあたる風鳴峠に、精霊と対話する事が出来る精霊使語師【シャーマ・ラーサ】の一族のみが暮らす平和な国があった。
しかし、精霊を知らず感じぬ者には、その国は決して見つけられなかった。
何故なら、ある精霊が国守護者【ガーディアナ】として都を守っていたからだ。
……………☆……………
その風鳴峠に、草達が沈黙する中、大勢の足音が響く。
剣や飛び道具を手にした軍隊だ。
峠の頂上に着くと、一人が前に進み出て両腕を広げると何か呟く。
すると!目の前に風が渦巻き、大勢のマントをはためかせる。
風が去るとそこには大きな門が現れ、兵達がざわめく。
この門には扉がなく、アーチ状の構えだけ。
門の中には道が続いているが、角度を変えて裏から見ると門は存在せず、軍隊が見えるのみだ。
その見えない門がどんどんと軍隊を吸い込んでいった。
平和な国、ウィルタータに外の国からの侵略が開始されたのである。
軍隊の先導をしているのは一人の精霊使いだった。その男は風で都の術者を次々と蹴散らし、軍の隊長とおぼしき兵士とともに大通りをずんずん進んでいった。
その頃、王宮の中では国王と王妃が漆黒の髪の赤ん坊を、他者に託すところだった。
「この子を…今まで都を守護してくれたように…、これからはサミラを護ってやってください。…お願い…」
王妃は涙目になりながら赤ん坊をその女性に渡すと、顔を背けた。
「都の守護者【ガーディアナ】でありながら、今は何も出来ない我々を許してください…。あの精霊使いには、我々の捕縛が効かないのです…」
女性は寂しそうにブルーグレーの瞳を伏せて、王妃の背を撫でる。
「ルフィアス。解っているのだろう?その者が誰なのか…」
「はい…」
申し訳なさそうに女性・ルフィアスは国王と向き合う。
腕の中で笑う赤ん坊に、二人は薄く微笑む。
「わしの考え通りならば、この国に先は無い」
国王の瞳に影が浮かぶ。
ルフィアスは、ただ頷く。そして、そっと口を開く。
「国王、ウィルタータはまた始まるのです。サミラ様の元で」
「そうだな…」
赤ん坊のサミラは笑顔を振りまき、三人の心を和ませる。
そこへ向かって、あの精霊使いが長い階段を登って来ていた。
いち早く気づいた国王は見渡すように顔を上げ、ルフィアスの肩を押す。
「急ぎなさい、ルフィアス。来るぞ!サミラを…都を頼むっ」
深く頭を下げる国王に、ルフィアスは頷く。
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