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「必ず護ります。そして都を離れても皆がウィルタータを忘れませんように…祈っています」
そう言って、赤ん坊を抱いたルフィアスの姿はその場から欠き消えた。
「頼むぞ…ルフィアス…」
国王の呟きは低く空に響く。
……………☆……………
ルフィアスは、一面銀色の世界にいた。
よく見ると、石造りの建物の中らしい。
壁自体が光を発していて月光の下のように明るい。
傍らには赤ん坊が入っている揺りかごがあった。
ルフィアスは揺りかごの前にひざまづくと手を組み合わせ祈り始める。
ウィルタータの平和を…
神殿のいくつものカーテンの奥で、祀られている半透明の白い石が赤い光の帯に囲まれていた。
軍隊の兵士達が、都の正門から一斉に入り一般の人々を襲ったり捕まえようとするのを、都の術師達が押し留めていた。
「縛化木っ!」
ある術師が杖に力を集めて言うと、術師周辺の兵士が持つ、木を部品に使ったあらゆる武器から芽が吹き出し、兵士の動きを封じていく。
それを振り払った者、金属の武器を使う者が続けて襲いかかって来る。
「崩化光っ!」
一人の術師が言葉を口にすると、杖の発した光を浴びた金属の武器防具がすべて溶けるように砂と化した。
その中で赤毛の術師達が人々を避難させて行く。
都の術師達は、出来るだけ相手を傷つけないような術を使っている。
武器や鎧を失った兵士達が後衛に下がって体制を立て直そうとして動くと、ぬかるみに足を捕られたように動けなくなった。
「水竜舞っ!」
空気中の水蒸気を集める水魔法に風を合成した中級呪文だ!!
ぬかるみが水に実体化し、渦を巻き始める。
兵士達を巻き込み、水は竜巻と化して都の外まで移動していく!!
それでも、思ったほど敵兵士達が減っていない。
術師達は懸命だ。
……………
その頃、王宮の前に精霊使いと軍の中の先発隊が到着したが…そこに人の気配はしなかった。
「どうなってやがる…」
あまりの静けさに警戒しながら進み、やがて入った王座のある謁見の間で、やっと人の姿を見つけた。
「よく逃げなかったもんだな、国王よ」
鼻で笑う隊長の視線の先に、王座の上に静かに鎮座する国王と、寄り添うように立つ王妃がいた。
「都を乱して楽しいか?息子よ」
国王は変わらぬ威厳を持ったまま言葉を紡ぎ、隊長の隣に立つ精霊使いを見る。
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