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「この国は遅れている。精霊にばかり捕らわれ、時の流れを忘れた!」
「寄り添って共存しているのだよ」
「人と精霊の時の流れは違うっ!」
精霊使いは言葉に力を込める。
「私は国の外に出て知ったんだ。観念に捕らわれて動けぬ愚かさを!!」
そう言う精霊使いの首には半透明な白い宝石の付いたペンダントが下がっていた。
「それならば、その首に下げている物は何だね?
観念に捕らわれるのが嫌なら、何故それを捨てない!
何故、いまだに精霊と語らうのだ!」
「力だからだ!!」
精霊使いは言い返す。
「私はこの都で生まれはした。だが、私の言い分が通った事があったか?
外に出る事さえ、話に耳を傾けてもくれなかったじゃないか!」
精霊使いの言葉に、国王は小さくため息をつくと相手を見返す。
その真っ直ぐな視線に、精霊使いの方が視線を反らすと国王は口元だけで笑う。
「お前もよく知っていたはずだ。
この国は外との関わりを精霊を通してしか行わず、その歴史を刻んで行くのが使命なのだと!」
「それが嫌だった…自由に生きて見たかった!
…王子と言う枷を振り払いたかった!!」
「王となる者は漆黒の髪を持つ…お前はいずれ、自由になれた身だ。只…まだ早かった。
成人せずに都を出た為に、お前の心は外の国の色に染まってしまった」
国王は寂しそうな目をする。
「良い国なら良かったのだが…戦いの為に生命【いのち】を犠牲にするような国に染まってしまうとは…精霊達が悲しんでいたよ」
「うるさいっ!!」
精霊使いの言葉とともに突然風が沸き上がり渦を巻く!
その風で被っていたフードが飛び、王妃とよく似た青い髪が流れ出す。
双方が対峙する、その場を切り裂くように風の渦を何かが突き抜けて行った!
反射的に振り返った精霊使いの前に、たった今、投擲終えた体制から居直る隊長の姿があった。
「まだまだ甘ちゃんなんだよ」
皮肉めいた笑いを含んだ言葉を漏らし、怒気が失せた為弱くなった風の中、隊長がある方向を顎で差す。
その先には…腹部に太い槍を生やした国王の姿があった。
次第に溢れる血が服を染めていく。
傍らで、黙って王妃がそっとその身体を支えている。
精霊使いは言葉を失い、その場に立ち尽くす。
国王の目は、いまだ精霊使いの男・王子ナサムを見つめていた。
(本当は槍を抜くシーンがありましたが規制しました。)
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