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老人を心配して寄ってきたのは人ばかりでなく、多くの精霊達も居たのだ。
「おい、そこ!
止まるな!急げっ!」
隊長の激が飛び、兵士達が飛び上がる。
ウィルタータは月魔法【反】【宙】【無】の力が強い土地柄。
ここで最大級の排除呪文を出されたら、どんな弊害が起こるかわからない。
だから早急の撤退指示なのに、あまり進んでいない。
自分達が攻めているというおごりが、逃げたくないと心にブレーキをかけているのかも知れない。
そんな中、先程八方に散った光のうちの一つ、紫の光が大きく弧を描いて都上空に戻って来ていた。
「元へお還りなさい。そして私達に力を貸してくださいな」
王妃が空に向かって声をかけると、紫の光は旋回して王座の後ろ辺りに落ちた!
そこから地面の上を半透明の紫色の波紋が拡がって行く。
波紋が通りすぎた後、兵士達はおののき、人々はひれ伏した。
そこにいるすべての精霊の姿が、すべての人間の目に明らかになった為だ。
更に紫色の光は地下に潜り、そこにあった白い半透明の石と融合を果たした!
色が白から紫色に変わり、発した光はまとわり付いていた赤い光を打ち消した!!
「全ての精霊【とも】達。今、祖の友なる民達の祈りに答えたまえ」
王妃が全霊を傾けて祈る。
すると、それに答えて精霊達は民達に寄りそう。
「おおっ精霊達が…」
呟く老人の傍には緑色の髪の精霊が膝をつくと、先程蹴られた肩に手を当てて微笑む。
手の平がミントグリーンに光って、擦り切れた傷がみるみる消えていく。
怯える家畜達にも青系の髪の精霊達が慰めにいく。
「これでも、いないとか言うんじゃろうか…?」
老人が呟くが、相手方からの返答はなかった。
その言葉が終わるちょっと前、都の地面を這うように黒い波が流れて行き、精霊のシールドに護られていた者以外の全てを押し流してしまったからだ。
黒い波が消えると、精霊達は人間から離れて行った。
「ウィルタータの民達よ…いつか都へ皆を呼び戻す日が来るでしょう…その時がくるまで都は閉じます…」
再び都に言葉を流すと、王妃の姿は完全に形を失い、残された光は国王の光と寄り添った。
人々は取り付かれたように黙々と移住を始める。
都の中は急かす空気が流れていた。
風以外の精霊が姿を消し
植物は色を失い
水が小川から退いて行く。
やはり排除魔法を発した祀り石は、土地の力を失わせてしまったらしい。
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