第3話

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重い扉を上げると、爆音が襲ってきた。 ドンドンと床が揺れているのが分かる。 イメージ通りの薄暗さだが、思った以上に空気が悪い。 煙草の匂いと、アルコールの匂いと、それぞれの香水の匂いが入り混じって、何とも言い難い匂いが充満している。 お姉ちゃんに引っ張られながら人ゴミを進むと、小さなバーカウンターに出た。 カウンターの向こうには背の高いモヒカンの人が少し驚いた顔をしている。 「美幸ちゃん、来ちゃってんじゃん」 モヒカンのバーテンはお姉ちゃんを見て苦笑いした。 「正樹の番いつ?」 カウンターの席に座りながらモヒカンにお姉ちゃんが尋ねると、モヒカンが人ごみの向こうを指さし「今から」と笑った。 人ごみの向こうにはDJブースがあって、暗闇の中で人がモゾモゾと動いているのが見える。 そしてブースにスポットライトが集中すると、そこに片手を上げた正樹さんがいた。 キャップを前後ろ逆に被り、大きめのヘッドホンを耳にあてている。 その姿にクラブ内の女の子たちが騒ぎ出す。 私の隣に座っていた女の子たちも「マサキが来てるー!」と言って、DJブースの近くへ走って行った。 「あーそういうことー」 もう片側にいるお姉ちゃんは感情のこもってない声で正樹さんの方を見ていた。 ヤキモチMAX状態のお姉ちゃんにモヒカンのバーテンがオロオロする。 「見てよ、鼻の下伸ばして…」 お姉ちゃん、こっから正樹さんの鼻の下が見えるなら視力が10.0くらいあるよ…
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