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浅井金属の飲み会は、企画時には必ず男女一名ずつの幹事を配置する慣わしとなっている。
というのも、デスクワークでない製造部は会費の集金を更衣室で行う事が多いためそれぞれの性別に置いた方が都合がいいからだ。
また、食事の好みが男女間で差がある事もしばしばで、意見の取りまとめをするのにも勝手が良い。
バーベキュー会の開催は去年から始まったものだが、幹事の配置は飲み会の慣例にならい適用されている。
「賀集?」
去年のもう一人の幹事の名に、凜子の顔がしかめられた。
「違うわよ。ていうかあんなの製造のリーダーのくせに、采配上手そうな顔して結局見かけ倒しだったじゃない。
前回の散々な舵取りはアンタもよく知ってるでしょ」
二人の脳裏に蘇る、凜子曰くの『散々な舵取り』。
―――その日の天候は最良の秋晴れだった。
場所も奈都のシミュレーションの甲斐があり、小ぎれいで設備の整った見晴らしの良いバーベキュー場。
にもかかわらず何がいけなかったのか―――それは食材、しかも一番要の、バーベキューでは主役級ともいえる肉を食材担当の賀集が忘れてきた事である。
うっかりは誰にでもある。ブーイングは起きたが仕方がない。
問題はその後の対応だ。
動揺する賀集は、あろうことか主役不在のまま強行進行させようとしたのだ。
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