253人が本棚に入れています
本棚に追加
「元、名古屋の営業のエース。成績優秀、眉目秀麗、気配り上手なレディファースト。…噂の限りでは嫌味なくらい絵に描いたように完璧な奴ねぇ」
天を向いていた人差し指は引っ込まれ腕が組まれる。
「凜子、部署違っても仮にも上司なんだから『奴』はちょっと。ていうかそんな噂あったんだ」
「ここ連日女子更衣室の恰好のネタになってるじゃない。独身だとか、名古屋に彼女残してこっちきてるとか、いやいやそれはガセで本当はフリーなんじゃないかとか」
アンタも毎日更衣室で聞いてるでしょ、と加えようとした凜子だったが。
「あぁ、うん。そのテの話題は興味無かったわね」
加える前に凛子はひとり納得し、そこで話は畳まれた。
「奈都が女子の幹事やるって事は私から主任に伝えておくから。今日リーダー会議あるのよ。設計も営業も集まるし丁度いいわ」
「お願いね」
じゃ、と身を翻す凜子の背中を奈都が見送った。
(凜子って何であんな綺麗なんだろ)
毎日油にまみれているはずなのに、顔も手も露出している肌という肌は全て滑らかで。
一括りの髪も先端まで艶やかで。
奈都は無意識に、傍目には寝癖だか天然だか判別し難い自分の髪をつまむ。
だからといってひがんでいるのではなく。
(凛子は気になってる人とかいるのかな)
だから、いつも綺麗にしているんだろうか。
「興味、一ミリもないって訳じゃないんだけどな。でも私にとっては異次元の話題かも…」
奈都の口から小さく吐かれた呟き。
語尾はパタンとファイルが閉じられる音に掻き消されたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!