1)恋愛とはボルトとナットの関係である

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「元、名古屋の営業のエース。成績優秀、眉目秀麗、気配り上手なレディファースト。…噂の限りでは嫌味なくらい絵に描いたように完璧な奴ねぇ」 天を向いていた人差し指は引っ込まれ腕が組まれる。 「凜子、部署違っても仮にも上司なんだから『奴』はちょっと。ていうかそんな噂あったんだ」 「ここ連日女子更衣室の恰好のネタになってるじゃない。独身だとか、名古屋に彼女残してこっちきてるとか、いやいやそれはガセで本当はフリーなんじゃないかとか」 アンタも毎日更衣室で聞いてるでしょ、と加えようとした凜子だったが。 「あぁ、うん。そのテの話題は興味無かったわね」 加える前に凛子はひとり納得し、そこで話は畳まれた。 「奈都が女子の幹事やるって事は私から主任に伝えておくから。今日リーダー会議あるのよ。設計も営業も集まるし丁度いいわ」 「お願いね」 じゃ、と身を翻す凜子の背中を奈都が見送った。 (凜子って何であんな綺麗なんだろ) 毎日油にまみれているはずなのに、顔も手も露出している肌という肌は全て滑らかで。 一括りの髪も先端まで艶やかで。 奈都は無意識に、傍目には寝癖だか天然だか判別し難い自分の髪をつまむ。 だからといってひがんでいるのではなく。 (凛子は気になってる人とかいるのかな) だから、いつも綺麗にしているんだろうか。 「興味、一ミリもないって訳じゃないんだけどな。でも私にとっては異次元の話題かも…」 奈都の口から小さく吐かれた呟き。 語尾はパタンとファイルが閉じられる音に掻き消されたのだった。
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