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奈都も女性にしては割と背丈がある方だが、相手のそれは男性に置き換えたとしても随分とある。
普段ではなかなか味わえない身長差を瞬時に感じ取った奈都だったが、彼の名前が呼び起されるまでには暫しの間を必要とした。
「あー、馬場主任…?」
「何でクエスチョンマーク付いてる風なの」
馬場が目を細める。
「営業の馬場。もう名前と顔覚えたよね。
ま、忙しかったせいで結局昨日までほとんど打ち合わせ出来なかったしね。
お互い顔合わせたのも、実質今日が初めてみたいなもんだから仕方ないか」
そう言って、奈都の腕からひょいと木炭入り段ボールを抜き取った。
見事軽々と持ち上がり感心が抱かれるが、手持ち無沙汰になってしまった奈都は戸惑いを見せる。
「西浦さん。全部のグループに食材配ってあげてよ。
早めに食べモン見れた方が、皆のテンション上がって盛り上がるだろうからさ」
「…それは確かに」
スタート時のテンションが重要なのは前回の教訓で身に染みている。
「水回りの場所は僕が教えておくから。
悪いけど、女性社員へのトイレの案内は西浦さんいいかな。よろしくね」
再び目を細めた馬場の背中が奈都から遠ざかった。
ほぼ無風のはずなのに、彼が去ったあとはまるで爽やかな秋風が吹いたようだ。
「まー三十路越えにしてこまやかな男だこと」
殊更人気なのも納得ね。
いつの間にか奈都の元に寄った凛子が頷いた。
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