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どうやら馬場のフォローによって、ようやく奈都の班の炭に火がついたらしい。
手慣れた様子でテキパキとこなす馬場に、女性社員からの熱い羨望の眼差しが一斉に注がれる。
何で西浦と一緒にいるんだよ。主任はこっちのグループだろ。
奈都の班を手助けにいった馬場が面白くない賀集は、不快感を露わにしながらも内心で毒づく。
「くそ、クッキング馬場め…」
しかし次に吐いたのはダダ漏れで、それも毒というよりも某料理漫画のタイトルを彷彿とさせてしまう呟きである。
「何それ、誉め言葉?」
「え、あ」
「まー確かに、主任の包丁さばきは見事だし背は高いし、顔はちょっと面長?でもしゃくれてはいないと思うわよ」
「……」
「小学生レベルのあだ名なんて付けて僻んでないで、ライバル意識持ってんなら男らしく行動で示しなさいな」
凜子の正論に加集は押し黙るほかない。
事実“負けて”いるのだ。
相手は主任、こちらはリーダー。階級で見ても自分の方が格下だ。
男から見ても馬場の容姿は優れている。
自分も決して悪くはない、と言いたいところだが、言ってしまえば傍から『自惚れんな』と反論される予感は否めない。
その上、同じ幹事なのに今年と昨年では誰が判断しても雲泥の差――これは一番刺さる事実だ。
認めたくない。だが認めざるをえない。
悔しさを消化出来ずに、幼稚なあだ名を付けた己が情けなさすぎる。
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