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「はい」
他にも何か迷惑を掛けてしまっているのだろうか。
不安を募らせながらの奈都が馬場に視線を向けると、にこりと満面の笑みと共に次の言葉は返された。
「僕と、付き合ってくれないかな」
「――――は…??」
発した彼女自身が驚くほどの頓狂な声が出た。
何を言っているのだろうこの人は。何故この話の流れで。大体今日が初対面に近い(こちらは名前もうろ覚えなくらいだった)というのにその申し出。いや、そもそも発言自体が聞き間違えだったのでは――。
脳裏ではありとあらゆる疑念が怒涛の勢いで走る。
対して目は点、口は「は」の形に開いたまま固まる奈都だが、向かい合う馬場も一定して笑顔を崩さない。
「…え、えーと、すみません、私の耳に妙な台詞が届いてしまったんですが。まさか届いた通りの意味のはずは、ないですよね…」
「届いた通りそのままの意味だけど」
「よくあるちょっと売店まで行くのに“付き合って”とかいうベタなオチじゃ…」
「30過ぎた男がそんな冗談言わないよ」
微笑んではいてもその目は発言を証明するかのように真剣だ。
真っ直ぐにこちらを見つめてくる。揺れが全く無い。
「どうして私が…」
「ごめんね、驚いてるよね。僕も自分で唐突だと思うんだけど、今日の西浦さんの一生懸命な姿が凄く気に入ったから。
ほら、鉄は熱いうちに打てっていうでしょ。即日実行タイプだから僕」
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