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――なるほど。熱いうちに、か。
恋愛も熱間鍛造みたく、熱を持ってる間に素早く行動を起こすべきものなのかもしれない。
(っていやいやいや!納得してる場合じゃないし!)
嗜好ド直球の金属に例えられ思わず頷くが、ハッと我に返り首を横に振る。
「えっと、今は恋愛とかあまり興味無くて」
「まずは友達からで構わないよ。西浦さんが僕を悪くないって思えたら、少しずつ考えてくれればいいからさ」
「その、仮にお付き合いさせてもらったとしても、私仕事に没頭しちゃうタイプなんであまり気を回せないかもしれなくて」
「気にしないよ。それに同じ職場なんだから、仕事のやりがいや大変さはお互い分かり合えるだろうし」
(あ、だから…)
赤い旗で華麗に猛牛をいなす闘牛士のように、上手くかわされてしまいもどかしい。
それに違う。これらは本当に伝えたい理由ではない。
「いや、あの、馬場主任モテるでしょうから、何もこんなガサツな女じゃなくたって」
「……」
「ていうか私金属マニアなんですよね。昔っから大好きで。あまりに過ぎた度にきっと主任引いちゃいますよ」
辿々しかった断り文句はいつの間にか流暢に、顔には無意識に笑みを貼り付けていた。
その言葉に大きな意味がある事を察せられないように。
ネガティブで屁理屈を並べる扱いにくそうな女だと印象付けられたって構わない、寧ろ本望であるとさえ奈都は思う。
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