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極度の高温で熱せられた金属は目が眩むほどの輝きを放つ。
型に流し込まれるとその光は穏やかに変わり、型から漏れる淡いオレンジ色はまるで灯篭のような幻想的な光景だ。
もう何度目になるか分からない作業でもこなす度にそう思うだろう――いつもの奈都であるなら。
「…奈都。もうお昼よ。どうしたの、そんな深刻な顔して」
尋ねた同僚かつ友人の声に、奈都はビクリと肩を跳ねさせたように顔を上げた。
「あ、ううん、何でも」
「珍しいわね。正午30分以上も前から意気揚々とするアンタがぼうっとしてるなんて」
「はは。ちょっと昨日は寝てなくて」
「大丈夫?しょっちゅうゲームで徹夜してる賀集じゃないんだから。寝不足で鍛造は危ないわよ」
凜子の忠告に苦い笑みを浮かべながら軽く頷く。
と、食堂に向かうその肩が、トントンと大きな手の平に叩かれた。
「西浦さん。ごめんね、昼休憩に入ったところだけど少しだけいいかな」
「は、はい」
しどろもどろな返答で凜子の横をすり抜ける。
「西浦さん、ウチの製品写真集めたファイル持ってなかったっけ」
「はい。手製ですけど…」
「あぁ、それで構わないから貸してくれないかな。
企業展に合わせて、ホームページをリニューアルするって営業から話があってさ。カメラマンを呼んで画像を大きく掲載したページにしようって案になったんだ。だからピックアップ用にそのファイルがあると便利だなって思って」
「じゃあ今から持ってきますね」
「待って!」
踵を返そうとした奈都の腕が捕まった。
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