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「主任…」
ようやく、だが蚊の鳴くような声で、腕を掴んだ主――馬場の役職が呼ばれた。
「あ、いや。別に急いでないから。昼休憩しっかり済ませてから手が空いた時に持ってきてもらえればいいよ」
はい、と頷いた声もまたか細い。
やって来た方向へ戻る馬場の背中を見送って、それまで傍観者と化していた凛子が発したのは食堂に着いてからの事だった。
「奈都、主任と何かあったでしょ」
もはや断定の口調だ。
その直球に肩を跳ねさせ、すぐに硬直状態に陥った奈都は肯定しているも同然だ。
無言でいつもの席に腰掛ける。
互いに弁当箱の包みを開いたところで、食堂内の賑やかさで周囲が会話を拾えない程度の音量に抑えて凛子が口を開いた。
「その反応、久しぶりだわ。高校生ぶりかしらね。
もっともアンタの何もかもを把握してる訳じゃないから、私の知り得る限りでの話だけど」
「……」
「まぁ大体は察しがつく。
でもね奈都、その極端な態度じゃ私じゃなくても簡単に想像出来ちゃうわよ。それが事実と合っていようが間違っていようが、奈都にとって宜しくない事態になるのは明らかじゃないかしら」
ゆっくりと、下唇を噛み締めるように奈都が頷いた。
「今夜の予定は?」
「…空いてる…」
「急ぎないなら夜聞かせてよね」
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