2)鉄は熱いうちに打て。恋も熱いうちに撃て?

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「…っ、…あ、ごめ…」 「体調悪いなら午後の作業控えた方がいいんじゃないか。無理して仕事したところで効率上がるもんでもないし、かえって怪我に繋がるかもしれない。それにただの怪我じゃ済まなくなるかもしれないし…」 「分かってる…!」 反射的な強い語気に、賀集の眉根がやや寄った。 バツが悪そうに口をつぐんだ奈都はそれ以上言葉を続けようとしない。 「色々あるのよ奈都にも」 「そっか。…でも西浦、もし俺に相談出来る事があれば言えよな。友達として愚痴聞くぐらいなら俺でもしてやれるからさ」 「ありがと…」 小さく、そして苦く笑った奈都を見る賀集の笑顔もまた苦い。 “友達として”――どんな思いでその単語を紡いだのだろう。 些かの躊躇も見せないフラットなトーンであったが、おそらく胸の内は声の通りではないはずだ。 (やれやれね…) 二人を視界におさめながら箸を進める凛子が内心で嘆息する。 (あの時と同じじゃないの奈都。やっぱりまだアンタの心には――) 箸でつまんだ唐揚げは、持参の度に奈都がベタ誉めしてくれるお陰で、得意料理だと自負出来る唯一のおかずだ。 今日はまだ交換していなかったな。 凛子が奈都の弁当を見やると、いつもの交換相手である卵焼きは、既に最後の一個の半分を残し消えていたのだった。
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