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『午前8時30分、朝礼。
本日分の仕事内容の確認。担当範囲の進捗状況の共有。
午前8時40分、業務開始。
鍛造、切削、プレス、設計。各自ポジションに配置。
正午。
午前の業務終了。午後1時までフリータイム。』
以下略。
―――誰が見ても分かるタイムスケジュールを記した張り紙の横で、奈都は腕をめいっぱい伸ばし立ち上がった。
「終わったぁ!さあゴハンよゴハンっ」
張り切って食堂へ向かうその足取りは、テーブルにつく最後まで軽い。
「今日も相変わらず元気だな、西浦は」
いつもの席に先に腰掛けていた、奈都と同じベージュの作業服姿が感心も交えて微笑んだ。
「っていうか賀集(かしゅう)が月曜日だってのに疲れた顔してるんじゃん。どうかしたの?」
テーブルを挟んで向かいの奈都にずいと覗き込まれる。
賀集拓人(たくと)は思わず椅子に座りながら体を仰け反らせ、ズレた眼鏡の位置を指で正した。
「分かった、まーた夜更かししてたんでしょ。モンハン?パズドラ?」
「…どっちも違う。昨日は休日出勤だったの俺」
「あー、そういや先週言ってたね。特注の治具製作の納期近いって。
ていうかちゃんとご飯食べてんの?ただでさえ痩せてるんだから、しっかり栄養摂らないと元気に冬越せないよ」
西浦、母親かよ。
内心でそう突っ込む賀集の口は、一拍置いて違う言葉を落とした。
「毎日独身寮の明かり一つ無い部屋にクッタクタになって帰るんだよ。疲れた体で自炊する気にはなかなかなれないって。
…まあ、誰か作ってくれる人でもいれば別だけどさ」
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