3)鉛に沈めた恋と過去

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そして体の芯を冷やすような寒さからようやく逃れられたと、誰もが思い始めた三月は上旬。 しかし人々の安堵が打ち砕かれるような冷たい風が吹き荒れた日、奈都の心もあっけなく、いとも簡単に打ち砕かれた。 弁当を持っては毎日二人で屋上で過ごす昼休み。 交際が始まって以来、手作り弁当を一日たりと欠かした事はなかった。 その日は風が別段強かった。ましてや屋上となれば凄まじい。 しかし雨天であれば屋上での昼休みは明らかに取り止めだと分かるが、強風とはいえ晴天となると判断に窮する。 彼にメールを送ってみたが返信は無い。 携帯を家に忘れたのか、もしかしたらもう先に居るのかも――。 そう思った奈都はひとまず屋上に向かった。 『お前の彼女ってアレだろ。製作コース唯一の』 『あぁ、当たり』 屋上へと続く扉の手前、届いた声に階段を上る足がぴたりと止んだ。 前者の声の主は分からないが、後者は彼に間違いない。 きっと会話の相手は友達だろう。 盗み聞きの状態は憚られたが、“私がその彼女です”と彼等の前に名乗り出る勇気は持ち合わせていない。 タイミングを見計らって扉を開けようと暫しその場で待機していると、先程の友達と思わしき声とはまた別の声が上がった。 『ぶっちゃけもうヤッた?』 何て露骨な質問をするんだろうか。
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