3)鉛に沈めた恋と過去

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『ごめんなさ…』 相手を見る余裕の無いままの、奈都の呟くような謝罪。 制服のスカートと裾から覗く脚だけが目に入り、相手が校内で数少ない女子生徒だという事は認識出来た。 『いいよ、そっちこそ大丈夫…っていうかアナタ…!』 相手の驚くような反応にこちらの肩が跳ねた。 続く言葉を予想して防御態勢に入る。 もし“機械科の二年生に彼氏がいる人でしょ”とでも訊かれたら、愛想笑いでごまかそうか。 『泣いてるの?』 『……っ!!』 問われてハッとした奈都が自分の頬を拭う。 手の甲に水分が付着したのを捉えて、動揺と羞恥が一気に込み上がる。 逃げ出すまではまた早かった。 やはり相手の顔もロクに見ずに一目散で走り出した。 消えてしまいたい。自分が無価値な人間に思えてならない。 自分が今、ここにいる意味は何なのだろう。 異性への意識がこの道を選んだ最大の理由であるはずがない。 ならば何故、涙を流している事にすら気が付かない程酷く傷付いているのか。 違うなら違うと堂々と胸を張っていればいいじゃないか――。 沈んでゆく自分と這い上がろうとする自分がせめぎ合い、お互いに足を引っ張っているかのように対極の感情が交錯する。 その色はまるでドロドロに溶けた鉛みたいだ。 決着のつかない感情は、決着をつけないまま冷えた心に――鉛の中に閉じ込めて固めた。 融解される事なく、遠い過去の記憶として封印した。
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