3)鉛に沈めた恋と過去

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*** 中華料理店でありながら、ソファーやガラステーブルといった可愛らしい洋風なデザインの個室は、気心知れた者同士の女子会にはぴったりだった。 凛子が肴のスティック春巻をつまみ、腕を組んでの考えるポーズをとる。 「つまり、主任から元彼と同じような内容で告白されて、過去の苦い思い出が蘇ってきちゃったと」 的確な凛子の要約に、奈都がか細い声で「うん」と答える。 「でも正確には違って…。 仕事命だとか金属マニアだとか自分の短所アピールしたんだけど、それにも屈しなかった主任から『むしろそこが良い』みたいに言われたというか…」 「それが短所かはともかく、体のいい断り文句並べられても引き下がらないなんて、主任って案外空気読まないタイプなのね」 「……」 「悪い意味じゃないわよ。わざと読まないの。 恋愛は初っ端から引き下がったって何も掴めないもの。あえての鈍感力で自分から押しに行く事も必要だと思うわ」 “空気が読めない”のではなく“空気を読まない” ――凛子としてはそのニュアンスに明確な違いがあるらしい。 馬場が後者に当てはまるかどうかは不明だが、これまで恋愛に対して無頓着だった自分からしてみれば、対面での告白という時点で行為自体は尊敬に値するかもしれないと奈都は思う。 「はー、封印してたつもりだったんだけどなぁ。 もう10年近くも前の話だよ。何で今頃思い出してるんだろね私」 「封印も何も、奈都はあの日から引きずったままじゃない」 「え…」
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