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「何今さら驚いてるの。自覚なかったの」
凛子が次に手を伸ばしたのは海老マヨだ。
驚愕する奈都を尻目に「美味しいわねコレ」と、テーブルに運ばれてくる料理を次々頬張る凛子に遠慮は無い。
ここは以前奈都が合コンで訪れ気に入ったという中華料理店だが、奈都の食べっぷりは近頃はすっかり影を潜めてしまっている。
「どの辺りが…?」
「灯台もと暗しなところよ。
アンタ気配り上手なのに、肝心なところ見ようとしてないじゃない。それは過去を引きずってるからこそじゃないの?」
怪訝げに奈都が首を傾げる。
「“読まない”って意味では、奈都も主任と同じなのかもね」
「どういう意味?」
「自分の心をわざと読みに行かないのよ。
過去を『封印した』って言ったけど、それってただの保管だから。処分じゃなくて保管だから、つつかれるとすぐに過去が顔を出すの。
自分の心を読んで過去と決別出来てれば、苦い思い出は封印じゃなくて処分になるのよ」
「…結局、灯台もと暗しはどういう意味なの?」
「それは私から具体的に教えるのは憚れるわ。答えは奈都が自分自身で気付きなさいな」
突き放されたような、諭されたような。
自分には見当が付かないのに、傍には明確なものとは何なのだろう…まるでなぞなぞみたいだ。
奈都の唸り声を「ところで」と凛子が切った。
「返事どうすんの」
やはり奈都が唸る。今度はテーブルに顔を突っ伏した。
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