253人が本棚に入れています
本棚に追加
秋もいよいよそれらしくなってきた。
人々の食欲の増幅も然り、夏には敬遠していた温かいものを好むようになったのも然りだ。
もっとも奈都の食欲は世間のそれに反し低下したままであるが。
食堂のいつものテーブル、いつもの時間に凜子と向かい合い、持参の手作り弁当を広げる様は変わらない。
「そういえば賀集は?」
昼休憩も半ばを過ぎているのに姿を現さないでいる。
「休み?」
「出勤してるわよ。食堂来る前に擦れ違ったんだったわ。何でも専務に呼び出されたとかで昼遅れるって」
ふーん、とさして探る様子でもない奈都と、
片や「専務から出頭命令って…ったく何やらかしたんだか」と嘆息する凜子だ。
立場的には製造部のリーダーだが、日頃の不甲斐無さ(主に奈都に対するものだ)を思うと疑わずにはいられない。
――と。
「あいにくお小言ではありませんでした」
言葉が降り、凜子の隣、つまり奈都と向かい合ってテーブルにつく気配に顔を上げる。
「あ、賀集。終わったんだ。色々言われた?」
滅多に会う機会の無い専務から直々の呼び出しだなんてよっぽどだ。
「別に。フロー確認とこれからも頑張れよって話。あー腹減った。今日のランチ何?」
「確か豚カツ定食だったような」
っしゃ、と子供のようにガッツポーズした賀集がすぐに席を立つ。
すると今度は、配膳場に向かった賀集と入れ替わるように別の男性の気配が察せられた。
最初のコメントを投稿しよう!